この本では、人間にふさわしい居住が、人間としての尊厳を守る基礎であり、安心して生きる社会の基盤であることを、さまざまな事例を引用して説明されています。
憲法で謳われている「健康で文化的な最低限度の生活」を成り立たせる上で居住環境がいかに大切であるか。
それは、単体の建築計画も重要であるし、それらが連なって形成される多様性のあるコミュニティも重要であるし、そこに安心して暮らし続けることができる仕組みも重要であるし、政策として住宅問題を解決していくことも重要、といったことが書かれています。
特に印象に残ったのは、そもそも日本は海外に比べて、安心して健康的に暮らすことができる住居が人権であるという意識が非常に薄いという記述です。
本来、健康で文化的な最低限度の生活を実践するための住居は、貧しい人、弱者も享受できなければならない権利であると。
しかし実際のところは、自己責任論が幅をきかせる不寛容な世の中で、その権利意識は抑圧されているように感じます。
今回の読書を通じて、建築が単なる趣味的なデザインの対象としてあるのでなく、住人の健康的な暮らしを支えて、生きやすい社会を形づくる資産であることを強く意識させられました。
少し古い本で、当時の政策に関わる内容が多かったので、現在どのような状況になっているか、引き続き勉強してみようと思います。
著者:早川和男
出版:岩波書店、1997