事務所を開設して半年と少し、ぼくたちなりにフル稼働で動き続けてきましたが、初めての年越しを迎えたところで溜まっていた疲れが吹き出して、しばらく体調を崩していました。
冬休みの間にいろいろやりたいことがあったのに、ほぼずっと寝込んでいました。
年末は特に日々の仕事に追われてなかなかじっくりと読書ができずにいたのですが、寝込んだついでに長年読み切れていなかった本をようやく読み終えることができました。
風土とは単なる自然環境ではなくして人間の精神構造の中に刻み込まれた自己了解の仕方に他ならない
という観点から、モンスーン・沙漠・牧場の三類型を設定し、世界各地域の民族・文化・社会の特質を浮き彫りにするという内容です。
初版1979年の本ですが、中身の文章は昭和初期のもので古いです。
しかし、風土という数百年、数千年の時間をかけて形成されてきたものを相手にする内容なので、今読んでも古びていないように思います。
この本を読んでおもしろいと思ったのは、風土の特性を考察していくときに、考察の出発点Aから、AということはBである、BということはCである、CということはDである、….と深堀りしていく展開がとても創造的でダイナミックであることでした。
また、さまざまな地域ごとの特性を論じていくことで、それらとの比較で最終的には日本の特性がとてもうまく浮き彫りにされています。
一番印象に残ったのは、「家」に関する考察です。
日本の家と西洋の家のセキュリティラインの違い(日本=玄関、西洋=個室)が、前者の公共への無関心、後者の公共への強い関心を生み出しているという指摘は現代においても鋭く突き刺さります。(なぜそうなるのか、は長くなるのでぜひ読んでみてください)
寛容さを失っている現代社会の息苦しさは、遡れば建築もその一因となっている。
思いがけず大きな問題を突きつけられました。
しかし、風土が人の生き方、考え方を形作り、結果建築がそのように形づくられてきたのであれば、逆に、建築が人を勇気づけ、鼓舞して生き方、考え方を形づくり、結果風土にまで影響していく(おおらかで生きやすい社会をつくる)こともできるかもしれない、と希望のようなものも感じました。
一度に風土に影響を与えるような大規模な設計の機会はなかなか無いと思いますが、そのような希望を託しながら、ひとつひとつのプロジェクトに向き合っていこうと思います。
著者:和辻哲郎
出版:岩波書店、1979