静岡 3日目

静岡建築行脚のつづきです。
この日はレンタカーで静岡市から東の方へ移動しながら色々な場所を見学しました。




江川邸/伊豆の国市韮山
江戸時代初期に建てられたとみられている領主の住宅。国の重要文化財に指定されている。
床面積の約1/3を占める広大な土間と上部に広がる懐の深い小屋組によって、たいへんゆったりとした空間がつくられています。
入母屋屋根の妻面開口部からの光が整然とした小屋組みを照らし、低い軒に囲まれた外壁開口部からの光が土間を照らし、内部は間接光のやさしいあかるさに包まれていました。
架構は島根の伝統建築で見られるような力強く巨大な梁でなく、空間のスケールに対してスマートなサイズ感で整然と組まれていて、築400年を超える建築ながら、どことなく現代性を感じました。





源兵衛川/三島市
市内中心部にありかつては農業用水や生活用水として市民の生活と共にあったが、高度経済成長期にどぶ川と化した川の再生。
全長1.55kmに及ぶ水辺を8つのゾーンに分けて、それぞれにテーマを設定して再生されています。
水路に立体的に近づいたり離れたり、飛石で水路を渡り歩いたり、橋の下をくぐり抜けたり、いろいろな水辺空間が楽しめるようになっていました。
次々と展開する風景を楽しみながら散策する中で、水辺を楽しむ多くの人とすれ違いました。
観光客もいるけど、それと同じくらい市民らしき方が散歩していたりジョギングしていたり休憩していたり、日常的な居場所になっているようで素晴らしかったです。





富士倫理研究所/御殿場市印野
今回とても楽しみにしていた建築物。静岡来訪が決まったらすぐに見学予約をして、気合いを入れて伺いました。
富士山を望む広大な敷地を囲い込むようにゆったりと研修エリア・宿泊エリア・清堂が配置されています。
折り目正しい均衡を求めたという設計趣旨の通り、木で組まれた屋根架構やコンクリート・鉄骨の構造体が一定のリズムで連続して、空間に奥行きと陰影をつくっていて、静かで緊張感のある空間がつくられていました。
かなり高度な木造の技術が用いられているようですが、木でつくること自体が目的化して建築の質が後回しになってしまうことなく、コンクリートや鉄骨も適切に組み合わせて素晴らしい空間がつくられていました。





とらや工房/御殿場市東山
庭園の中に計画されたカフェ。
風にそよぐ木々の間を縫う回遊式の遊歩道があって、そこに寄り添う建物の佇まいがとても良かったです。
遊歩道の延長としてカフェが設けられていて、庭園を眺めながらゆっくりと休憩できました。
ここでどのような時間を過ごしてほしいか、その体験全体を大切に構想されていて、建築はその体験の一部を担う手段の一つに過ぎない、といったあり方がとても良いなと思いました。(かと言って建物自体が適当になってるわけではなく、すごく丁寧につくられていました)





とらや御殿場店/御殿場市新橋
ロードサイドのカフェ+ショップ。
今回、良い意味で最も期待を裏切られた建物。
敷地が交通量の多いロードサイドで車がたくさん行き交っていて、このような騒々しい敷地でブランドイメージを保つように静けさや上品さをつくりだすのは難しい。こんな場所に建っていたとは知らず、かなり驚きました。
敷地全体を植栽で囲んで落ち着いた庭園のような環境をつくる・建物を道路から十分セットバックして道路に正対しないように斜めに配置する・フラットルーフの下に庭園に開かれた気積の大きなゆったりとした居場所をつくる、という方法を積み重ねた結果として上品で静かな環境が実現されていて、ひとつひとつの選択の上手さに唸っていました。




以上、たいへん学びの多い静岡めぐりとなりました。
雑誌で見ているだけでは掴みきれない情報がたくさんあるので、実際に建築を見にいくのはやはりとても勉強になります。
良いなぁと思う場所や建築はそれ単体で成立しているわけではなく、周辺環境とうまく馴染んでいたり、うまく差異をつくりだしていることがよくわかります。
このタイミングで静岡に招待してくれた友人に感謝です。